第一章 ステンレスに魅せられた男

2012.06.12 Tuesday

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    私が、ALAPAAPのスタッフ kenjiくんと 
    カワベさんの作業場に行ったのは5月の中旬。 
    ちょうど勝山の作品展が終了した数日後のことだった。
     
    「取材をさせて頂けませんか!」とお願いした以上、
    私も生半可な気持ちで挑む訳にもいかず…
    数日、いや数週間あれこれと取材内容を練っていたが…
    なかなか纏まらずにいた。

    カワベさんの作業場に、行くのは2人とも初めてで
    大通りまで、カワベさんと奥さんのアキさんが迎えに来てくれた。
    出迎えてくれた2人の笑顔に、何故か少しホッとしたが
    作業場へと続く細い路地は、まるで迷路の様で 
    その間に考えが纏まるはずもなく… 
    あっと言う間に作業場へ着いてしまった。
     

    作業場は、私が想像していたより、とてもシンプルだったが
    一歩中に入れば、そこにはカワベ マサヒロの世界が広がっていた。

    作業場という一種独特な雰囲気の中 
    「カワベさんお願いします」この一言から始まった。

    始まって数分後、私のある問いかけに カワベさんは 
    「僕の生活の中心にステンレスを削っている事があるんですよ」
    「人間にしか出来ないものだと思っています」
    この言葉を聞いた瞬間、 
    私の練った内容など上辺に過ぎなかった…と感じた。 

    そして、私は今 等身大のカワベ マサヒロと言う
    1人の生き方を伝えたいと思った。

    私は、前々から一度聞いてみたい事があった。
    それは、なぜ作品の素材が
     “工業製品であるステンレスのナット” なのか?
    指輪を作るのなら他にも沢山の素材があるはずなのに…
    なぜ、ステンレスのナットを選んだのか?
    アクセサリーを製作している方々の多くは、
    シルバーや真鍮などの素材を駆使して作品を生み出している。

    その上、ステンレスと言う素材は固く
    加工するのがとても難しい。 
    その素材にカワベさんは、手作業で挑んでいる。 

    作品製作のきっかけになった、年配の方が身に着けていた
    ステンレスのナットで作った指輪に 
    強く心惹かれた事が大きく関係していると私は思っていたが、
    それは、単なるきっかけにすぎなかったのだと、後で知る事となる。 

    思い切ってカワベさんに、
    「なんでステンレスなんですか?」と聞いた。
    するとニコッと笑ったカワベさんからは、
    意外な言葉が返って来た。 

    「ステンレス以上に、魅力を感じる素材があれば
       変えても良いんですよ。  
     でも、違う素材に変えても良いと思ってる自分が
     ステンレス以上に魅力を感じる素材に、出会えてないんですよ」 

    聞いた瞬間、私は予想外の答えに頭が真っ白になった。
    「絶対にステンレス」と言う答えを
    勝手に思っていたからである。  

    そこまでカワベさんを魅了するステンレスとは 
    どんな素材なんだろう?と考えていると 
    なぜ、好きなのか理由の一つを教えてくれた。 

    「ステンレス自体には、価値がないんですよ。  
     シルバーや金には、素材本来の価値が少なからずあります。  
     もちろん装飾に使う石も同じです。
     しかし、ステンレス自体には価値がない、  
     もし価値があるのなら、  
     僕が何らかの手を加える事で生まれる価値だけなんですよ。  
     その作品がダメだと言われたら、それは僕がダメなんですよ」 

    この言葉に私は、 
    「本当にゼロから、スタートの作品作りなんですね」と言った。

     削ったところが削れ、磨いたところが光る。 
    この単純ともいえる作業だが、 
    とても固いステンレスが相手ともなると、 
    手作業で挑むカワベさんは、並たいての労力、精神力ではないはずで…
    その中から、何を見出したのだろうか?

    削った分だけ…磨いた分だけ…
    ステンレスのナットは カワベさんに、
    応えてくれたのでは、ないだろうか?と私は思った。

    素材に価値はないが、魅力は十分にある。 
    そうなると必然的に魅力を生かすしかない。 
    そして、カワベさんは毎日ステンレスと言う素材と 
    向き合う事によって 魅力を引き出す
    様々な技法を編み出している。 

    作業場には沢山の棒ヤスリが置いてあったが 
    指輪に、デザインを施すには、
    どれも大きいと感じる物ばかりだった。 
    「このヤスリで、このラインを入れるんですよ」と教えてもらったが
    私の頭は、混乱した…
    とても、そのヤスリからあの美しいラインが 
    生まれるなんて想像が出来なかったからだ…。 

    独学から始まった作品創りだが ステンレスのナットは、
    確実にカワベさんの手で生まれ変わる。 

    こんなにステンレスの魅力、可能性を引き出せる人は
    居るのだろうか? 

    少なくとも、私はカワベさんしか知らない。 

    そして、その魅力の可能性は、
    カワベさんの手から無限に広がっていると感じた。 

    それは、ステンレスに魅せられた男、
    カワベ マサヒロにしか描けない新しい世界…





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