第二章 生み出す時間

2012.06.19 Tuesday

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    取材に訪れた、カワベさんの作業場で
    気になるモノを見つけた。 

    それは、梅干しなどを漬ける時に使う
    取っ手とフタの付いた大きな瓶だ。
    作業場には、不釣り合いなこの瓶の中には
    何やら、灰色の砂の様な物が一杯に入っていた。

    どうしても気になった私は、
    思わず、カワベさんに「これは、なんですか?」と聞いた。
    すると、またしても意外な言葉が返って来た。

    「ステンレスを削った時に出る粉なんですよ」

    私が、オレンジのフタを開けて
    覗き込んでみると、
    まるで砂鉄のような
    灰色で細かい粉が入っていた。


    なんでそんな粉をとっているのだろうか?と思っていると
    「その粉、身体に付くとチクチクして痛いんですよ。
     どう処理して良いモノやらわからず、瓶に貯めてるんですけどね。
     そう言えば、5年前に載ったKrash japanの時は、
     これだけだったんですよ」
    と言って笑顔で私とkenjiくんに見せてくれた写真には、
    確かに同じ瓶が写ってあった。

    しかし、灰色の粉は底の方に少しあるだけだった。

    この時点で、私はまだ、この粉から色々な事を
    考えるとは思っていなかった…。

    色々話を聞いた後、実際に作業をしているところを
    少し見せてもらう事となった。
    ステンレスのナットを万力に挟んで
    棒ヤスリで、少しずつ削って行くのだが
    固いステンレスを一心不乱に手早く削る音は、
    ゴリゴリと低音で力強い。

    近所の子供が両親に骨を削ってる音がすると
    例えたのも納得出来る程の
    迫力あるものだった。


    その音と共に、削られた細かい粉が灯りに照らされ
    キラキラと落ちて来る。

    それを見た私は、この粉はカワベさんがステンレスのナットと
    向き合い過ごした時間ではないだろうか?と思った。

    当たり前の事だが、削った分だけ粉が生まれる。

    なんの価値もないステンレスのナットが
    作品としての命を吹き込まれた瞬間
    自分の一部を粉と言うかたちで捨て生まれ変わる…。

    作品を生み出す、カワベさんもまた
    自分の人生の時間を引き換えにして作品に向き合っている…。


    大きな瓶一杯の灰色の粉は、
    カワベさんが長い月日ステンレスのナットに
    向き合い一緒に過ごした時間の証。

    それと同時に、自分の命を削り
    作品に命を吹き込んだ証でもある…




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